読みもの ・
夜ごはんを抜いた日に。食べものの小説5冊
上司と交換するお昼、見知らぬ人と囲む共同台所、半額弁当の争奪戦、殺し屋だけが来る店、一日一組の食堂。食べる場面が物語を動かす五冊です。
忙しい日ほど、食事は後回しになります。けれど小説の中では、何を食べるかが、そのまま人の立ち直り方になっている話が少なくありません。ここでは、料理や食卓がただの背景ではなく、筋の真ん中にある小説を選びました。明るい話から少し物騒な話まで混ぜて、いちばん勧めたいのは、最後に置いた一冊です。

1『ランチのアッコちゃん』
恋人にふられて仕事にも身が入らない派遣社員の三智子に、部長のアッコさんが一週間のお弁当とランチの交換を持ちかけます。毎日ちがう店へ行かされ、そこで働く人を見てくるうちに、三智子の目に入るものが変わっていく。アドバイスをくれるのではなく、行き先だけを決めてくれる上司がいい。短い話が集まっていて、五冊の中でいちばん気軽に読めます。

2『東京すみっこごはん』
商店街の裏手にある共同台所では、その日の当番が全員ぶんのごはんを作り、居合わせた人がそろって食べます。家にいづらい高校生や、仕事をなくした男性など、来る人はそれぞれ事情を抱えている。知らない人どうしだから話せることがある、という一点で組み立てられた連作です。出てくるのは家庭の料理ばかりで、それがかえっておいしそうに見えます。

3『ベン・トー サバの味噌煮290円』
寮で夕食の出ない高校一年生の佐藤が、夜のスーパーで値引きされた弁当に手を伸ばした瞬間、気を失います。そこでは半額弁当をめぐって、本気の殴り合いが毎晩くり広げられていました。弁当ひとつに全力を出す人たちの真剣さが、おかしくて少し格好いい。勝ち取ったあとの一食が、やけにうまそうに書かれます。冗談はかなり下品なので、そこだけ注意してください。

4『ダイナー』
危ないアルバイトに手を出したカナコは、殺し屋しか来ない食堂に売られ、そこで給仕として働くことになります。料理を作るボンベロは、かつて殺し屋だった男で、腕は一流。客が来るたびに、カナコの命は危うくなる。怖い場面と同じくらいの熱さで、料理の味や匂いが書きこまれているのがこの本の変わったところです。残酷な描写が多いので、五冊の中ではいちばん人を選びます。

5『食堂かたつむり』
恋人に部屋の中のものを全部持ち去られ、あまりのことに声まで失ってしまった倫子。仲のよくない母のいる故郷へ帰り、一日に一組だけの小さな食堂を開きます。客ごとに献立を考え、下ごしらえから丁寧に作っていく。話せなくなった人が、料理で気持ちを伝えていく。その手順を追うこと自体が、立ち直りの話になっています。
おわりに
最後の『食堂かたつむり』について。ほかの四冊はおもに食べる側の話です。この本だけは、作る側の手の動きを細かく追っていきます。倫子が最初の客のために献立を考えるところまで、まず読んでみてください。おなかがすいているときに読むと、少しつらいかもしれません。図書館の所蔵と書店は、それぞれの本のページで調べられます。