棚の前で/読みもの/一言も話さずに帰った日に。小さなお店の小説5冊

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一言も話さずに帰った日に。小さなお店の小説5冊

夜だけ開く夜食の店、岬の先の喫茶店、月曜だけの抹茶カフェ、桜並木のどら焼き屋、鎌倉の文具店。客の話をだまって受けとめる店が出てくる五冊です。

誰とも口をきかないまま家に着く日があります。そんな日は、店の人と客がほんの少し言葉を交わす話を読みたくなる。ここでは、カウンター越しに人の事情を受けとめる小さな店の小説を集めました。夜の店から昼の店へ、食べものの店から紙と筆の店へと順に置きました。一冊に絞るなら、最後の本を。

『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』の書影

1『マカン・マラン 二十三時の夜食カフェ』

古内一絵/中公文庫 おすすめ度 ★★★☆☆

昼は服を仕立てる古い家が、日付の変わる少し前から、気まぐれに夜食の店になります。料理を出すのは、背の高いドラァグクイーンのシャール。仕事に追われて行き場をなくした会社員や、食事をとれない中学生がこの店にたどり着きます。疲れた体にやさしい料理が、話を聞く代わりに差し出される連作です。

『虹の岬の喫茶店』の書影

2『虹の岬の喫茶店』

森沢明夫/幻冬舎文庫 おすすめ度 ★★★★☆

海を見下ろす岬に、喫茶店が一軒だけ建っています。年を重ねた店主の悦子さんは、来た人に合わせてコーヒーをいれ、針を落とす盤まで選びます。立ち寄るのは、別れたばかりの人や、行き先に迷った人たち。店主が多くを聞かないぶん、客のほうから荷物を下ろしていく短編集です。

『月曜日の抹茶カフェ』の書影

3『月曜日の抹茶カフェ』

青山美智子/宝島社文庫 おすすめ度 ★★★★☆

東京の喫茶店が休みの月曜日だけ、京都のお茶屋さんが店を借りて抹茶を出します。そこで生まれた小さな縁が、月ごとの話を渡り歩くように次の人へ受け継がれていく。一月から十二月まで、前の話の脇にいた人が次の話の真ん中に立つ連作短編集です。

『あん』の書影

4『あん』

ドリアン助川/ポプラ文庫 おすすめ度 ★★★★☆

客の少ないどら焼き屋で、雇われ店長の千太郎がひとりで店を回しています。そこへ七十代の徳江が、ここで働かせてほしいと頼みに来る。彼女が煮た粒あんで、店の様子は少しずつ変わっていきます。早朝から豆と向き合う手つきを通して、生きる意味を考えさせる小説です。

『ツバキ文具店』の書影

5『ツバキ文具店』

小川糸/単行本 おすすめ度 ★★★★★

鎌倉の小さな文具店を継いだ鳩子は、祖母がしていた手紙の代筆も引き受けます。頼まれるのは、お悔やみや絶縁、借金の断りといった、自分では書きにくい手紙ばかり。紙もペンも切手も、頼んだ人の事情に合わせて選び直す連作です。

おわりに

最後の『ツバキ文具店』について。ほかの四冊の店は、食べものや飲みもので客を迎えます。この店で手渡されるのは、客の代わりに書いた手紙です。言えずにいたことを、人の手を借りて言葉にしていく過程が、ゆっくり書かれている。誰とも話さなかった日の終わりに開いてほしい一冊です。どの本も、本のページに近くの図書館の貸出状況が出ています。