読みもの ・
遠くへ出かけられない週末に。旅の小説5冊
ヘルシンキの食堂、線路の上、名古屋とフィンランド、空の上、そして日本各地。読んでいるあいだだけ、どこかへ行ける五冊です。
旅の小説といっても、名所をめぐる話ばかりではありません。人は何かを確かめたいときや、手放したいときに家を出る。だから旅の本には、たいてい出かける理由のほうが書いてあります。食堂を開きに行く人、遺体を見に行く少年たち、昔の友人に会いに行く男、ほうきで国から国へ飛ぶ魔女。締めくくりは、猫を連れて友だちを訪ね歩く話。五冊のなかで一番に推すのも、この本です。

1『かもめ食堂』
ヘルシンキで小さな食堂を始めたサチエのもとに、なかなか客が来ない。やがて行き先を決めずに日本を出てきた女性と、空港で荷物をなくした女性が、店を手伝うようになります。旅先にとどまって、そこで暮らしはじめる話なので、読むと遠くへ行ったような気分と、家に帰ってきたような気分が両方残ります。

2『スタンド・バイ・ミー 恐怖の四季秋冬編』
十二歳の四人が、行方の分からなくなった子の遺体を見に行こうと、線路づたいに歩いて出かける。道中はほとんどが、くだらない話とけんかです。それを大人になった語り手が思い出しているので、楽しい旅のはずなのに、どこか遠くから眺めているような読み心地になります。

3『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
高校の仲間四人に、理由も聞かされないまま縁を切られた多崎つくる。十六年たって、そのわけを確かめるために、一人ずつ会いに出かけます。行き先は名古屋から、やがてフィンランドへ。この旅は景色を見るためではなく、昔の自分に会いに行くためのものです。

4『魔女の旅々』
一人前の魔女になったイレイナが、ほうきに乗って、行く先を決めずに国から国へ飛んでいく。一話ごとに着く国が変わり、住む人たちもそれぞれ少しずつおかしい。気軽に一話ずつ読めるのに、ときどき後味の苦い国がまじるのが、旅らしくていい。

5『旅猫リポート』
サトルは、飼い猫のナナをもらってくれる人を探して、小学校から高校までの友だちを訪ねていきます。語り手はナナのほう。猫の目から見た旅なので、人間どうしの気まずい話も、どこかとぼけて聞こえます。訪ねる先が増えるたびに、サトルがどんな子どもだったかが分かってくる。
おわりに
最後の『旅猫リポート』について。前の四冊が「どこへ行くか」の話だとしたら、この本は「誰に会いに行くか」の話です。旅の小説を一冊だけ選ぶなら、この本にします。近くの書店や図書館にあるかどうかは、それぞれの本のページで確かめられます。