読みもの ・
ミステリを読んだことがない人に。最初の5冊
人が死ぬ話は苦手、トリックは難しそう。そう思っている人に渡しやすいミステリを五冊。やさしいものから順に並べました。
ミステリと聞くと、血なまぐさい事件や複雑な仕掛けを思い浮かべて、つい避けてしまう人もいると思います。けれど、謎があって、それが解けるという気持ちよさは、事件の大きさとは関係がありません。一冊目は人が死なない話から始めて、学校、孤島、隣人、そして館へ。少しずつ「謎を解く本」の読み方に慣れてもらえるように並べ、いちばん勧めたい一冊は最後に置きました。

1『和菓子のアン』
デパートの地下の和菓子屋で働きはじめた十八歳が、お客さんの言葉や買い方に引っかかった小さな謎を、和菓子の知識をたよりに解いていく連作です。事件らしい事件は起きず、誰も死にません。ミステリの「気づく」楽しさだけを、甘いお菓子といっしょに味わえる入口です。

2『体育館の殺人』
高校の旧体育館の舞台裏で生徒が死に、手がかりは一本の傘と細かな物の状態だけ。学校に住みついている変わり者の生徒が、それを一つずつ検討して犯人を絞りこみます。読者にも同じ材料がすべて見せられているので、「自分で考えながら読む」練習にちょうどいい。会話も軽く、学園ものとして気楽に読めます。

3『そして誰もいなくなった』
嵐で本土から切り離された島の屋敷に、見知らぬ十人が集められ、古い童謡のとおりに一人ずつ減っていく。八十年以上前の小説ですが、場面の切り替えが速く、今のサスペンスと同じ感覚で読み進められます。後のたくさんの作品がこの形を借りているので、ここを通っておくと、ほかのミステリがぐっと楽しくなります。

4『容疑者Xの献身』
犯人も、何が起きたかも、最初の章で全部見せてしまう。それなのに、隣に住む数学教師がどうやってその罪を隠したのかが、最後まで分からない。「誰がやったか」ではない謎があることを教えてくれる一冊です。直木賞をとった作品で、ミステリを読まない人にも名前が知られています。

5『十角館の殺人』
ミステリ好きの大学生たちが、互いを海外の作家の名前で呼びあいながら、十角形の館が建つ無人の島で合宿をする。島の話と本土の話が交互に進み、読む側は二つの場所を行き来しながら、少しずつ不安を積み上げていきます。何も知らないまま読むのがいちばんの本なので、ここではこれ以上書きません。
おわりに
最後の『十角館の殺人』について。五冊目に置いたのは、前の四冊で「謎を追う読み方」に慣れた人ほど、この本に深く驚かされるからです。ミステリを一冊だけ渡すなら、私はこれにします。近くの書店と図書館にあるかどうかは、五冊それぞれのページから確かめてください。