棚の前で/読みもの/SFを読んだことがない人に。最初の5冊

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棚の前で

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SFを読んだことがない人に。最初の5冊

宇宙や未来の設定に身構えなくても読める小説を五冊。短いものから順に並べました。

SFは設定を覚えるのが大変そう、という声をよく聞きます。ただ、設定の説明がほとんど要らないSFも同じ棚にあります。今回はそこから五冊。拾い読みできる短編集、一晩で終わる長編、猫の出てくる古典、旅の話、そして語り口そのものが仕掛けになっている一冊。前の四冊は助走のつもりで、最後の一冊をいちばん読んでほしくて並べました。

『ボッコちゃん』の書影

1『ボッコちゃん』

星新一/新潮文庫 おすすめ度 ★★★★★

数ページで一編が終わるので、好きな順に拾い読みできる短編集です。著者が初期の作品から五十編を選びました。題名も中身も、言われなければSFだと気づかない話がいくつもあります。流行りの言葉がほとんど出てこないぶん古くならず、活字から離れている人にも渡しやすい一冊です。

『時砂の王』の書影

2『時砂の王』

小川一水/ハヤカワ文庫JA おすすめ度 ★★★★★

長編ですが分量は短めで、一晩で読み切れます。未来で負け続けた人類が、歴史の分岐点へ人工知性体を送り込んで抵抗させる話。舞台になるのは邪馬台国の時代。正体の分からない相手を前に、古代の人々が立ち向かいます。時間ものと歴史もののどちらかに興味があれば、そこから入っていけます。

『夏への扉〔新版〕』の書影

3『夏への扉〔新版〕』

Robert A. Heinlein/ハヤカワ文庫SF おすすめ度 ★★★★☆

一九五〇年代に書かれたタイムトラベルものの古典。すべてを失った発明家が、三十年先へ行く冷凍睡眠を選ぶところから始まります。描かれる「二〇〇〇年」の技術には時代を感じますが、何度でもやり直そうとするダンの態度は古びていません。冬になると猫のピートが家じゅうの扉を開けさせる、という冒頭だけでも読む価値があります。

『旅のラゴス』の書影

4『旅のラゴス』

筒井康隆/新潮文庫 おすすめ度 ★★★★★

人が集団転移や壁抜けを使える代わりに機械を失った世界で、一人の男が北へ南へ歩き続ける長編です。章ごとに土地も立場も変わるので、読み心地は短編集に近い。SFの道具立ては出てきますが、読んでいるあいだはほとんど旅行記です。

『アルジャーノンに花束を〔新版〕』の書影

5『アルジャーノンに花束を〔新版〕』

Daniel Keyes/ハヤカワ文庫NV おすすめ度 ★★★★★

最初のページが誤字だらけのひらがなで始まります。知能を高める手術を受けた青年チャーリイが研究者に出す「経過報告」の形で進み、たどたどしかった文章が日を追って正確になり、どこまで賢くなったかを読者は文体で知るという作りです。翻訳なのにその変化がちゃんと伝わるのは、訳者の仕事です。

おわりに

最後の『アルジャーノンに花束を』について。賢くなることは幸せになることなのか、という問いが、読んでいるあいだずっと手元に残ります。SFの棚から一冊だけ選ぶなら、私はこれを渡します。五冊とも、各ページから近くの書店と図書館の状況を確かめられます。