棚の前で/読みもの/誰かに教わりたくなった日に。師匠と弟子の小説5冊

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誰かに教わりたくなった日に。師匠と弟子の小説5冊

花火大会での弟子入り、海を渡った陶芸家の手伝い、九歳の弟子、バスの中のチェス、白い紙に引く一本の線。教わる側から描いた五冊です。

大人になると、誰かに一から教わる機会はめったにありません。けれど小説には、この人について行くと決めた瞬間から始まる話がたくさんあります。師匠は立派な人とはかぎらないし、弟子もいつまでも弟子ではいられない。ここでは、教わる側の目から師匠を描いた小説を、読みやすさも見ながら並べました。五冊目が、わたしのいちばんの推しです。

『火花』の書影

1『火花』

又吉直樹/文春文庫 おすすめ度 ★★★★☆

売れない若手芸人の徳永が、余興で出会った先輩の神谷に、その夜のうちに弟子にしてくれと頼みます。神谷は常識からはみ出していて、師匠として頼りになるかといえば怪しい。それでも徳永は、笑いに対する神谷のまっすぐさから目を離せない。教わるというより、そばで見続けた十年の話です。

『リーチ先生』の書影

2『リーチ先生』

原田マハ/集英社文庫 おすすめ度 ★★★★☆

明治の終わりに日本へ来たイギリスの陶芸家バーナード・リーチと、その手伝いをすることになった少年、亀乃介の話です。言葉も育ちも違う二人が、土をこねて窯を焚く現場で関係をつくっていく。弟子の側から見た師匠が、何十年もかけて少しずつ違って見えてくる。実在の人物を描いた長い一冊です。

『りゅうおうのおしごと!』の書影

3『りゅうおうのおしごと!』

白鳥士郎/GA文庫 おすすめ度 ★★★★★

最年少で竜王になったものの、負けがこんで自信をなくしかけた八一。その家に、将棋を始めたばかりの九歳の女の子、あいが弟子入りを願って押しかけてきます。教える側のほうが、弟子に教えながら立ち直っていく。対局の場面の熱さもあって、五冊の中でいちばん勢いよく読めます。

『猫を抱いて象と泳ぐ』の書影

4『猫を抱いて象と泳ぐ』

小川洋子/文春文庫 おすすめ度 ★★★★★

小さいままでいたいと願った少年が、廃バスで暮らす男にチェスを教わります。のちに少年は、人形の中に入って盤に向かうようになる。師匠に習ったのは勝ち方ではなく、盤の上でどうふるまうかだった。静かで、ほかの四冊とは違う手ざわりの話です。

『線は、僕を描く』の書影

5『線は、僕を描く』

砥上裕將/講談社文庫 おすすめ度 ★★★★☆

展覧会の設営のアルバイトで出会った老人が、日本を代表する水墨画家だった。大学生の霜介は、その場で弟子にならないかと誘われます。墨のすり方、筆の持ち方から教わり、花を一輪描くことに苦労する。線を一本引く練習が、止まっていた霜介の時間を動かしていく。湖山の孫の千瑛との勝負も物語を引っぱります。

おわりに

最後の『線は、僕を描く』について。ほかの四冊が、師匠という人そのものの面白さや危うさを描いているのに対して、こちらは教わることで弟子の側が変わっていく過程を、いちばん丁寧に追います。まずは霜介がはじめて筆を持つ場面まで、読んでみてください。五冊とも、本のページから近くの図書館の所蔵と書店を確かめられます。