あらすじ
霜介は、湖山の内弟子として水墨画を学び始めます。湖山の孫で、同じく絵に打ち込む千瑛は、素人の霜介を弟子に取ったことが気に入らず、翌年の展覧会での勝負を挑む。墨のすり方、筆の動かし方、花を一輪描くことの難しさ。霜介は、描くことを通して自分の喪失と向き合っていきます。
読みどころ
作者自身が水墨画家で、筆が紙の上を走る瞬間の描写が、文字なのに目に浮かぶ。芸術の話ですが、専門知識はまったく要りません。『羊と鋼の森』が好きな人には、同じ系統の静かな熱を感じてもらえるはずです。
こんな人に
おすすめしたいのは。大切な人を失って、何も手につかなくなった経験がある人。
2022年に横浜流星の主演で映画化されました。続編の『一線の湖』もあります。
向かないかもしれない人
水墨画の技法の描写に多くの紙幅が割かれ、展開そのものは穏やかです。派手な勝負の場面を期待する人や、親を亡くした記憶が生々しい時期の人には、静かな重さが合わないかもしれません。
比べ読み
『きみの友だち』重松清
星が同じで、どちらも孤独を抱えた若者が人とつながり直す話です。『きみの友だち』は松葉杖の少女らを中心にした連作で、友だちとは何かを問います。こちらは両親を亡くした大学生が水墨画の巨匠に誘われ、筆を通して喪失と向き合う一本の話。人間関係を考えるなら重松作品、描くことの静かな熱に触れるなら砥上作品を。
『この世にたやすい仕事はない』津村記久子
『この世にたやすい仕事はない』は燃え尽きて仕事を辞めた女性が、考えずに済む仕事を紹介されていく話で、働き方を見直す軽さがあります。こちらは心を閉ざした大学生が、墨のすり方や筆の運びから一つの技を学んでいく話。気負わず働くことを考えたいなら津村作品、一つの道に打ち込む姿を見たいならこちらを。








