読みもの ・
寝る前に一話ずつ。短編集の小説5冊
死神、弁護士、折り紙の虎、手紙だけの一編、海辺の理髪店。どれも一話ずつ区切って読める五冊です。
長い小説を読む元気がない夜でも、一話なら読めることがあります。短編集のいいところは、どこでやめても読みかけにならないこと。そのうえ、短いぶん最後の数行に重みがかかるので、一話を読み終えたあと、明かりを消してからも話のことを考えてしまう。ここでは、なぜかいつも雨の中で仕事をする死神の話から、家族のすれ違いを描いた理髪店の話まで、手ざわりの違う五冊を並べました。締めくくりの一冊が、いちばんのおすすめです。

1『死神の精度』
調査員の千葉は、死ぬ予定の人間のそばで一週間をすごし、本当に死なせてよいかを決める死神です。人間の冗談が通じず、音楽にだけは目がない。扱っているのは人の死なのに、千葉のずれた受け答えのせいで、読み口はふしぎと軽い。一話ごとに相手も場所も変わる六つの話です。

2『満願』
表題作では、学生のころ下宿でお世話になった女性が人を殺した罪に問われ、弁護士になった男がその弁護を受けもちます。ほかに交番の警察官や、海外で働く商社の社員の話など、全部で六つ。どの話も、最後に向かって「なぜその人はそうしたのか」の一点へ絞られていくので、一話読むごとにしばらく黙りこんでしまいます。

3『紙の動物園』
中国から来た母が紙で折った虎は、息を吹きこまれると動きだす。けれど大きくなるにつれ、少年は母の言葉や習わしを遠ざけるようになります。不思議な仕掛けはひとつだけで、描いているのは親子の距離。この表題作を含む七つの話が入っていて、長さもまちまちです。

4『スモールワールズ』
子どものいない夫婦。店で万引きを見逃してしまう店員。塀の中の兄。どの話も登場人物が少なく、狭い世界の中で進みます。何気ない毎日を読んでいたはずが、途中で一度、足元が傾く。最後の一編は手紙のやりとりだけで組み立てられていて、それも含めて六つの話です。

5『海の見える理髪店』
海の見える町の小さな理髪店に、青年が予約を入れて訪ねてくる。店主が、はさみを動かしながら、昔は都会で名の知れた客の髪も切っていたという、自分の来し方を話しはじめます。ほかにも、長く会っていなかった母を訪ねる娘の話など、家族のすれ違いと別れを描いた六つの話が入っています。
おわりに
最後の『海の見える理髪店』について。前の四冊が一話ごとに驚かせてくる本だとしたら、この本は大きな出来事のないまま、会話の端から二人の関係がにじんでくる本です。寝る前に一話だけ読むなら、表題作から開いてください。近くで借りられるか、買えるかは、それぞれの本のページで見られます。