あらすじ
六編を収めた短編集です。表題作「満願」は、学生時代に下宿先の女主人に世話になった弁護士が、殺人の罪に問われた彼女の弁護を引き受ける話。ほかに、交番勤務の警察官の話や、海外の資源開発に関わる商社マンの話などが並びます。どの話も、事件の派手さより、それを起こした人の心の動きに焦点が当たっています。
読みどころ
大がかりなトリックで驚かせるのではなく、人がなぜその道を選んだのかという一点に向かって話が絞られていく。そういう短編ばかりです。一編ずつ区切って読めるので、忙しい時期でも手をつけやすい。静かで、長く尾を引く読み心地があります。
こんな人に
おすすめしたいのは。短い時間で上質なミステリを読みたい人。
一話ごとが短く、寝る前に一編ずつ読むのに向いています。同じ作者の『黒牢城』は、長編の歴史ミステリです。
向かないかもしれない人
大きなトリックでの驚きは控えめで、六編とも人の心の暗い部分に向かいます。明るい読み味や、名探偵が謎を解く爽快さを期待している人には、静かで重く感じられそうです。
比べ読み
『点と線』松本清張
星の並びが同じで、どちらも事件の派手さより人の内側を追う作品です。『点と線』は心中に見えた男女の死を時刻表から崩していく一本の事件もの、『満願』は六つの短編で、人が道を選ぶ理由に向かって絞られていきます。一つの事件を腰を据えて追うなら松本作品、一晩に一話ずつ区切りたいならこちら。
『本陣殺人事件』横溝正史
『本陣殺人事件』は婚礼の夜、足跡のない雪の離れで起きる殺人を解く古典で、密室の仕掛けが主役。『満願』は大がかりな仕掛けを避け、交番の警察官や商社マンなど身近な人物の暗がりを短く切り取ります。トリックの驚きを求める日は横溝作品、静かに尾を引く話を求める日は米澤作品を。














