棚の前で/読みもの/メッセージが短くなった今こそ。手紙で進む小説5冊

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メッセージが短くなった今こそ。手紙で進む小説5冊

椅子の中からの告白、隠しごとがにじむ往復書簡、返事の来ない恋文、吸血鬼を追う日記、別れた夫婦の手紙。書かれた文だけで話が進む五冊です。

短いメッセージなら一日に何十通も送れるのに、長い手紙を書く機会はほとんどなくなりました。手紙は、相手に読まれる前提で書かれます。だから書いてあることと同じくらい、書かなかったことが気になってくる。ここでは、手紙や日記のような「誰かが書いた文」だけで物語が進む小説を、短いものから並べてあります。いちばん勧めたいのは最後の一冊です。

『人間椅子』の書影

1『人間椅子』

江戸川乱歩/角川文庫 おすすめ度 ★★★★★

表題作は、椅子職人の男が書いた一通の手紙そのものです。中身は、自分で作った椅子の中に入りこみ、座る人の重さを感じながら過ごしていたという打ち明け話。読んでいる側は、その手紙を受け取った人と同じ位置で読まされる。短い一編なので、手紙の形の怖さを知る最初の一冊に向いています。

『往復書簡』の書影

2『往復書簡』

湊かなえ/幻冬舎文庫 おすすめ度 ★★★★☆

昔の同級生、先生と教え子、恋人どうし。三つの組み合わせが、それぞれ手紙をやりとりする短編集です。どの手紙も、自分をよく見せたい書き手の手で書かれている。往復を重ねるうちに、最初の手紙では触れなかった過去が少しずつ出てくる。手紙だからこそ隠せて、手紙だからこそ漏れるものが読みどころです。

『恋文の技術』の書影

3『恋文の技術』

森見登美彦/ポプラ文庫 おすすめ度 ★★★★☆

研究のために能登へ送られた守田一郎が、京都の友人や妹、師匠に手紙を送りつづける長編です。本に載っているのは、守田が出した手紙だけ。相手の返事は、守田の次の手紙から想像するしかない。肝心の人への恋文だけがなかなか書けないところが、いちばん笑えて、少しせつない。

『吸血鬼ドラキュラ』の書影

4『吸血鬼ドラキュラ』

ブラム・ストーカー/角川文庫 おすすめ度 ★★★★☆

城を訪ねた青年の日記、その婚約者の日記、友人の手紙、新聞記事と、いくつもの記録が並んでいきます。登場人物は、それぞれ自分の見たものしか知らない。読む側だけが全部の記録を手にして、迫ってくるものの形を先に知ってしまう。古い作品ですが、この組み立てのおかげで今読んでも緊張が続きます。

『錦繍』の書影

5『錦繍』

宮本輝/新潮文庫 おすすめ度 ★★★★★

離婚した二人が、紅葉の山のゴンドラで思いがけず顔を合わせます。そのあと元妻の亜紀が手紙を書き、元夫の有馬が返事を書く。本の中身は、そのやりとりがすべてです。会って話せば言い争いになることも、手紙なら最後まで書ける。二人が別れた理由と、その後の年月が、一通ずつ確かめるように語られていきます。

おわりに

最後の『錦繍』について。ほかの四冊が、手紙の中に隠されたものや、記録が積み重なる面白さを使っているのに対して、こちらは書くことでしか相手に届かない言葉を、正面から扱っています。一冊だけ選ぶなら、亜紀と有馬の手紙を読んでみてください。どの本も、近くの図書館の所蔵と書店へのリンクを本のページに載せています。