読みもの ・
イヤホンを外した夜に。音が聞こえてくる小説5冊
階段で鳴らすロック、スタジオで起きた死、やけどを負った少女のピアノ、身分を隠して習うチェロ、体育館で聞いた調律の音。文字から音が立ちのぼる五冊です。
一日じゅう耳に何かを流していると、夜くらいは静かにしたくなります。そんなときは、音を文字で読むのも悪くありません。ここでは、楽器を弾く人、音を整える人、音楽のそばで事件に巻きこまれる人の話を集めました。にぎやかなバンドから、ピアノ一台の静かな音まで、音量の大きい順に並べています。迷ったら五冊目から。

1『階段途中のビッグ・ノイズ』
先輩たちの事件のせいで、軽音楽部は二人きりになりました。それでも神山と九十九は、文化祭でライブをやるつもりでいます。練習に使えるのは、屋上の手前までの階段だけ。そこに仲間が一人ずつ集まってくる。部室も仲間も失いかけた四人が、文化祭のステージに向けて音を合わせていく青春小説です。

2『ラットマン』
何年も続いてきたアマチュアバンドの練習スタジオで、メンバーの一人が命を落とします。その場にいた姫川は、昔亡くした姉のことを重ねてしまう。題は、見る向きによってネズミにも人の顔にも見える絵のこと。同じ出来事の意味が、章をまたぐたびに塗り替わっていくミステリです。

3『さよならドビュッシー』
火事を一人だけ生きのびた遥は、ひどいやけどの残る体で、もう一度ピアノのコンクールに挑もうとします。教えるのは、少し変わったピアニストの岬洋介。指の動かし方や曲の読み方が、細かく書きこまれています。音楽の物語として読み進めるうちに、まわりで妙なことが続いていく一冊です。

4『ラブカは静かに弓を持つ』
音楽の著作権を扱う団体で働く橘は、大手の音楽教室に生徒のふりをして通うよう命じられます。目的は、裁判のための証拠集め。子どものころにやめたチェロを、若い講師について習い直すうちに、弾く楽しさがよみがえってくる。うそをついたまま人と近づいていく苦しさが、演奏の場面と一緒に重くなっていく長編です。

5『羊と鋼の森』
山の村から出てきた高校生の外村は、学校の体育館でピアノの調律に立ち会い、その音に森の気配を感じます。やがて調律師になった彼は、先輩たちについて家々のピアノを見て回る。自分に才能があるのか分からないまま、それでも一台ずつ音に向き合う話です。
おわりに
最後の『羊と鋼の森』について。ほかの四冊は、演奏する人や事件が話を引っぱります。この本で鳴っているのは、弾く前のピアノを整える音です。大きな出来事は起きないのに、仕事に迷った人の気持ちに静かに届く。夜にひとりで開くのに向いた本です。図書館で探すなら、各冊のページから近くの館の貸出状況を確かめられます。