あらすじ
舞台は滋賀県大津市の膳所。閉店が決まった西武大津店に夏じゅう通ってローカル番組の中継に映り込む、M-1に出る、坊主頭で登校する——成瀬あかりという中学生が思いついたことを片っ端から実行していく、6つの短編でできた一冊です。語り手は毎回変わります。幼なじみの島崎、近所の会社員、同級生。つまりこの本は、成瀬を外から見ている人たちの側から書かれています。
読みどころ
この小説がいちばん優しいのは、成瀬を誰も矯正しようとしないことだと思います。変わった子だとは言われる。けれど「普通にしなさい」と迫る大人が出てこない。だから読んでいて息が詰まりません。膳所や西武大津店やびわ湖が実在の重さのまま出てくる具体性も効いています。ずっと笑って読めるのに、最後の一編で急に時間の速さを突きつけられる構成です。
こんな人に
おすすめしたいのは。しばらく小説から離れていた人の、久しぶりの一冊に。
続編の『成瀬は信じた道をいく』もありますが、まずはこちらから。2025年7月に文庫化されて、いま本屋でいちばん手に取りやすい形になっています。
向かないかもしれない人
劇的な事件や大きな謎を期待する人には、あっさりしすぎに思えるかもしれない。再読性の星は3つで、主人公の奇行を面白がれるかどうかで楽しさが大きく変わる。
比べ読み
『チア男子!!』朝井リョウ
『チア男子!!』は男子がチアに取り組むことへの周囲の目から逃げず、大学生たちが最後の演技まで走る部活もの。『成瀬は天下を取りにいく』は中学生がM-1や西武大津店通いを思いつきで実行し、語り手が毎回変わる連作。仲間と達成を目指す熱がほしいなら『チア男子!!』、変わり者を外から眺めて笑いたいならこちら。
『くちびるに歌を』中田永一
『くちびるに歌を』の舞台は五島列島の中学合唱部で、部員それぞれの事情を残したまま共同作業を描く。『成瀬は天下を取りにいく』は滋賀の膳所を舞台に、周りに合わせない成瀬を誰も矯正しない連作。どちらも実在の土地を舞台にした中学生の話。集団の中の葛藤なら『くちびるに歌を』、まっすぐ我が道を行く話ならこちら。








