あらすじ
一止が暮らすのは、元旅館の古いアパート「御嶽荘」。写真家の妻・榛名と、売れない画家や大学生の住人たちとの暮らしが、病院の激務と交互に描かれます。そんな一止のもとに、大学病院で最先端の医療に関わらないかという誘いが来る。同じころ、大学病院で「もう治療法がない」と告げられた高齢の患者が、一止を頼ってやってきます。
読みどころ
作者は現役の医師で、地方病院の医師不足や終末期の医療を、説教くさくならずに書いているのが強みです。一止の芝居がかった口調は最初こそ戸惑いますが、慣れるとそれが優しさの照れ隠しに見えてくる。患者の老婦人が残した手紙の場面は、何度読み返しても胸にきます。
こんな人に
おすすめしたいのは。仕事に追われて、自分が何のために働いているか見失いかけている人。
2011年に櫻井翔の主演で映画になりました。シリーズは続編もあり、一冊目で気に入れば長く付き合えます。
向かないかもしれない人
主人公が漱石ばりの古風な話し方をするため、最初の数章で戸惑う人がいます。終末期の患者との場面もあり、身近な人の看病や死別を経験したばかりの人には、こたえる箇所があるかもしれません。
比べ読み
『舟を編む』三浦しをん
『舟を編む』は辞書作りに没頭する編集者たちの話で、仕事の手ざわりが中心です。こちらは地方病院の激務と、治療法がないと告げられた患者に向き合う内科医の話で、終末期の医療が背景にあります。気持ちを明るく保ちたい時期は三浦作品、働く意味を正面から考えたい時期は夏川作品が合います。
『ランチのアッコちゃん』柚木麻子
星が同じで、どちらも職場の行き詰まりから話が動きます。『ランチのアッコちゃん』は上司と一週間昼食を取り替えるだけの軽やかな話で、分量も軽め。こちらは眠れないほどの激務と、大学病院からの誘いの間で揺れる医師の話です。昼休みに気分転換したいなら柚木作品、腰を据えて仕事観を見直したいなら夏川作品を。









