あらすじ
事件の真相は、比較的早い段階で読者に見えてきます。この小説が時間をかけて書いているのは、その周りにいる人たちのほうです。殺された女性の父親、祐一を育てた祖母、事件の直前に女性と会っていた大学生。そして、佐賀の紳士服店で単調な毎日を送っていた光代は、祐一と出会って初めて誰かに必要とされたと感じます。
読みどころ
誰の立場に立つかで、同じ出来事がまったく違って見える。章ごとに視点が移るたびに、さっきまでの自分の判断がぐらつくのがこの本の読みどころです。九州の地名や方言が生々しく、峠道や灯台の場面は映像のように残ります。タイトルの問いに答えを出すのは、最後まで読んだ人に任されています。
こんな人に
おすすめしたいのは。ニュースの「犯人」の向こう側を想像してしまう人。
2010年に妻夫木聡、深津絵里の出演で映画化されました。同じ作者の『怒り』も、事件を軸に人を信じることを問う長編です。
向かないかもしれない人
殺人事件を扱うものの、真相は比較的早い段階で見えてくる。犯人当ての面白さを期待する人や、九州の方言が多い会話になじみにくい人には、展開がもたついて見えるかもしれない。
比べ読み
『流浪の月』凪良ゆう
世間が事件をどう見るかを問う点で、二冊はよく似た位置にあります。『流浪の月』は「誘拐事件」と呼ばれた二か月を当事者の側から語り、善意の人たちの残酷さに目が向く。悪人は殺人の周りにいる何人もの人へ章ごとに視点を移す。当事者の声に寄り添いたいなら流浪の月、多面的に見たいなら悪人を先に。
『ある男』平野啓一郎
『ある男』は、死んだ夫が実は別の人間だったという謎を追いながら、人は別の誰かとして生き直せるのかを問う。悪人は真相が早めに見え、周囲の人々の揺れに時間を割きます。謎の引きを頼りに読み進めたい日はある男、謎よりも自分の判断がぐらつく感覚に向き合いたい日は悪人が合う。









