あらすじ
里枝から調査を頼まれたのは、弁護士の城戸。彼は「大祐」を名乗っていた男の過去をたどるうちに、戸籍を交換して別人になりすます人々の存在に行き着きます。調べを進める城戸自身も、在日三世という出自や、ぎくしゃくし始めた家庭に、それぞれ割り切れない思いを抱えています。
読みどころ
謎を追う話でありながら、人は過去を捨てて別の誰かとして生き直せるのかという問いが、ずっと底に流れています。里枝が語る「夫」との日々は、たとえ名前が偽りだったとしても本物だった。そう思わせる描写が、この本の優しさです。
こんな人に
おすすめしたいのは。自分の生まれや過去を、いったんリセットしたいと思ったことがある人。
映画版(2022年)は妻夫木聡、安藤サクラの出演。同じ作者の『マチネの終わりに』は、大人の恋愛小説です。
向かないかもしれない人
戸籍のなりすましや在日三世という出自など、重い主題が絡みます。謎解きの爽快さを中心に求める人には、問いが話の底に流れ続ける作りが重たく感じられるかもしれません。
比べ読み
『悪人』吉田修一
星がそろい、どちらも人の正体をめぐる問いが芯にあります。『悪人』は峠で見つかった遺体をきっかけに、誰が悪人なのかを問う長編。『ある男』は亡くなった夫が別人だったと分かり、弁護士がその過去をたどります。罪と善悪を考えたいなら吉田作品、名前や過去を捨てて生き直せるかを考えたいなら平野作品を。
『正欲』朝井リョウ
『正欲』は多様性という言葉の外側に置かれた人々の話で、社会の言葉と個人の間のずれが主題。こちらは戸籍を交換して別人になる人々を通して、出自や過去と個人の関係を問います。謎を追う形で話が進むので、筋を頼りに読みたい人はこちらから、価値観の問題を突き詰めたい人は朝井作品から。









