あらすじ
無関係に見える人たちの暮らしが、章を追うごとに近づいていきます。そのうちの何人かは、世間の言う「多様性」にさえ含まれない、ある指向を抱えている。彼らは、それを誰にも知られないよう、細心の注意を払って日々を過ごしています。冒頭には、ある事件の報道が置かれています。
読みどころ
「自分は偏見がないほうだ」と思っている人ほど、読みながら何度も足元を揺さぶられるはずです。問いは重いですが、話の進め方はミステリのように引っ張る力があり、止めどころがなくなります。読後に誰かと話したくなる本です。
こんな人に
おすすめしたいのは。「多様性」という言葉に、どこか引っかかりを覚えている人。
稲垣吾郎、新垣結衣が出演した映画版(2023年)もあります。同じ作者の『何者』と続けて読むと、問いの深まり方がよく分かります。
向かないかもしれない人
重い問いを抱えたまま本を閉じるのがつらい人には不向きだろう。自分の偏見のなさを揺さぶられる作りで、気楽な娯楽を求める日には向かない。
比べ読み
『流浪の月』凪良ゆう
世間が貼るラベルと当事者の実感のずれを扱う点で近い二冊。『流浪の月』は誘拐事件と呼ばれた二人の関係を、静かな時間の描写で包むように書く。『正欲』は無関係に見える人たちの章が近づく組み立てで、ミステリのように引っ張る。重さを静けさで受けたいなら『流浪の月』、問いを突きつけられたいなら『正欲』を先に。
『ある男』平野啓一郎
『ある男』は、亡夫の正体が別人だったという謎を入口に、人は過去を捨てて生き直せるのかと問いかける。『正欲』は誰にも知られないよう暮らす人たちの指向を軸に、多様性という言葉の届く範囲を問う。どちらも謎で読ませるが、語りの優しさは『ある男』、揺さぶりの強さは『正欲』。穏やかに入るなら『ある男』から。














