あらすじ
夫の側の語りが中心で、記憶をなくした妻は穏やかに振る舞います。過去の自分が何を考えていたのかを、本人も周囲も知らない。真相を伝えるかどうかが、物語の緊張になります。
読みどころ
記憶喪失という設定を、感動のためではなく倫理の問題として使う作品です。劇的な場面をほとんど置かず、終始静かに進みます。
こんな人に
おすすめしたいのは。夫婦の関係を扱った小説が読みたい人。
同じ作者の『ひと』は本屋大賞の候補になった長編です。
向かないかもしれない人
記憶喪失ものに感動の盛り上がりを期待する人には肩透かしかもしれない。劇的な場面はほとんどなく、終始静かに倫理の問題を追う作り。
比べ読み
『とんび』重松清
家族の中の不器用さを扱う点は共通。『とんび』は妻を亡くした父が息子を育てる年月を、昭和の瀬戸内の暮らしとともに長く追う。『近いはずの人』は記憶を失った妻と夫の今を切り取り、真相を伝えるかどうかの倫理で緊張を保つ。時間の厚みを味わうなら『とんび』、静かな問いに向き合うならこちら。
『虹の岬の喫茶店』森沢明夫
『虹の岬の喫茶店』は場所と時間が人を変えるという書き方で、派手さのない穏やかな連なり。『近いはずの人』も劇的な場面をほとんど置かないが、夫婦のあいだの隠しごとが常に張りつめている。心を休めたい日は『虹の岬』、夫婦という近い関係を考えたい日はこちらを。









