あらすじ
五つの話が同じ主人公でつながる連作です。表題作のあと、「行き先は特異点」では位置情報と自動運転、「五色革命」ではバンコクのデモとドローン、「巨象の肩に乗って」では分散型SNSのマストドン、「めぐみの雨が降る」ではビットコインが題材になる。はじめは日本から画面越しに手を貸すだけだった文椎が、話が進むごとに事件の真ん中へ引き寄せられていきます。
読みどころ
作者はもとソフトウェア技術者で、書かれている技術がどれも、今日ニュースで見てもおかしくない範囲に収まっている。文椎は万能のハッカーではなく、人のコードを借りて直し、仲間に助けられて何とかする人です。その等身大の手つきがあるから、国家と一人の技術者という釣り合わない勝負が絵空事に見えない。第40回吉川英治文学新人賞を受けています。
こんな人に
おすすめしたいのは。ネットの仕組みや、アプリの裏側がどうなっているか気になる人。
同じ作者の長編なら、軌道上の奇妙な物体から話が広がる『オービタル・クラウド』がこの本の手触りに近い。
向かないかもしれない人
位置情報や自動運転、分散型のSNSやビットコインといった技術の話が次々に出てくる。仕組みに興味が持てず人物の感情だけを追いたい人には、説明が多く感じられるかもしれない。
比べ読み
『一九八四年』ジョージ・オーウェル
どちらも国家と個人の力の差を扱うが、『一九八四年』は監視が完成した社会を、本作は今ある技術で抗う一人の技術者を書く。読みやすさは本作が星一つ上。ネットの今を手がかりに考えたいなら本作から、重い古典に腰を据える週末なら一九八四年を。
『月は無慈悲な夜の女王』ロバート・A・ハインライン
自我を持ったコンピュータが独立の計画を立てる『月は無慈悲な夜の女王』と、広告ブロッカーやビットコインを題材にした本作。前者は月世界の訛りを写した文体に慣れが要り、読みやすさの星は3つ。技術ニュースの延長で読みたい時は本作を先に、骨太な古典に浸る時は月のほうを。











