あらすじ
事件から十五年。更紗は恋人と暮らしながら、どこへ行っても「かわいそうな子」として見られ続けてきました。ある夜、ふと入ったカフェで、文と再会します。二人の関係は、恋人とも家族とも違う。名前をつけられない関係を、周囲は理解しようとしません。
読みどころ
読んでいるあいだ、何度も「自分はニュースをこう読んでいなかったか」と考えさせられます。善意の人たちが一番残酷に見えてくる瞬間があり、そこが苦しい。それでも二人の静かな時間の描写は美しく、読み終えるとタイトルの意味がすっと入ってきます。
こんな人に
おすすめしたいのは。人に説明できない関係を、大事にしている人。
広瀬すず、松坂桃李の共演で2022年に映画化。同じ作者の『汝、星のごとく』と並べて読むと、共通するテーマが見えてきます。
向かないかもしれない人
周囲の善意が一番残酷に見える場面があり、そこが苦しい。名前のつかない関係を受け入れにくい人や、事件ものに明快な白黒を望む人には向かない可能性がある。
比べ読み
『八日目の蝉』角田光代
どちらも誘拐と呼ばれた出来事の内側に、血縁とも恋愛とも違う関係を見いだす。『八日目の蝉』は逃亡の四年間とその子のその後を、語り手の交代で反転させる。『流浪の月』は事件から十五年後の再会が中心で、静かな時間の描写が長い。構成の切れ味なら『八日目の蝉』、関係の静けさに浸るならこちら。
『正欲』朝井リョウ
『正欲』は多様性という言葉にも入らない人たちを、章を追って近づける群像の組み立て。『流浪の月』は更紗と文の二人に絞り、善意の周囲こそが残酷に見える瞬間を書く。問いの鋭さは『正欲』、二人の関係の手触りはこちらが勝る。ニュースの読み方を見直すところから始めたいなら、こちらを先に。











