あらすじ
書道教室を開く母、優しい父、不良になっていく兄。あみ子が良かれと思ってしたことをきっかけに、家族はばらばらになっていきます。けれど語りはあみ子の目線に寄り添っているので、彼女自身は何が起きているのかよく分かっていない。その無垢さが、読む側には痛いほど伝わってきます。文庫には、表題作のほかに短編「ピクニック」などが収められています。
読みどころ
読みやすい文章なのに、ページをめくるたびに胸が詰まる。あみ子を誰も責められないし、家族を責めることもできない。今村夏子のデビュー作で、のちの芥川賞作家の原点がすでにここにあります。
こんな人に
おすすめしたいのは。周りと違うことで、うまく居場所を見つけられなかった記憶がある人。
映画版は2022年の公開。同じ作者の芥川賞作『むらさきのスカートの女』とあわせてどうぞ。
向かないかもしれない人
あみ子の善意が家族をばらばらにしていく流れで、誰も責められない苦しさが続きます。筋の起伏より語りの痛みが中心なので、きれいに決着する話が読みたい人には重たく感じられます。
比べ読み
『変身』Franz Kafka
家族の中で浮いてしまう者を描いた短い二冊です。『変身』は虫になって働けなくなった男と、彼を持て余していく家族の話。こちらは書道教室を開く母や兄のいる家が、あみ子の善意をきっかけに崩れていく過程を、本人の目線のまま追います。古典から入りたい人はカフカ、身近な家庭の空気を見たい人は今村作品を。
『コンビニ人間』村田沙耶香
周りとずれた語り手の目で世界を見る点が共通しています。『コンビニ人間』は恵子の淡々とした語りによって周囲の圧の方が異様に見え、笑える場面も多い本。あみ子の語りは無垢で、家族が崩れていくさまが読む側にだけ伝わり胸が詰まります。笑いを交えて読みたいなら村田作品、痛みに向き合う準備があるならこちらを。












