あらすじ
「わたし」は、黄色いカーディガンを着ているという以外、自分のことをほとんど語りません。むらさきのスカートの女がホテルの清掃の仕事に就き、職場になじみ、上司と親しくなっていく様子を、「わたし」は驚くほど近くから見ています。なぜそこまで知っているのか。その答えは、はっきりとは書かれないまま話が進みます。
読みどころ
文章は平易で、すいすい読めるのに、ずっと足元が少し傾いているような不安が続きます。ユーモラスな場面も多く、笑っていいのか迷う瞬間がこの作家の持ち味です。短いので、一度読んだら頭からもう一度読むのがおすすめ。
こんな人に
おすすめしたいのは。平易な文章なのに、何かがおかしい小説が好きな人。
同じ作者のデビュー作『こちらあみ子』もあわせてどうぞ。芥川賞作品なら『コンビニ人間』とも通じるところがあります。
向かないかもしれない人
語り手が相手の暮らしを詳しく把握している理由は、明かされないまま話が続きます。答えが示される話を好む人や、他人をのぞき見る視点に居心地の悪さを覚える人には合わないかもしれません。
比べ読み
『変身』Franz Kafka
『変身』とは星がまったく同じで、どちらも短く平易な文で異常な状況を書きます。カフカ作品は虫になった本人と家族の側から、今村作品は他人を見張る語り手の側から話が進み、不安の出どころが反対です。古典の不条理を先に知りたいならカフカ、笑っていいのか迷う感触を求めるならこちらを。
『月と六ペンス』W. Somerset Maugham
どちらも語り手がある人物を外から追う形をとります。『月と六ペンス』の語り手は破天荒な画家の足跡を人々の証言からたどり、皮肉の効いた語りが持ち味。こちらの語り手は自分のことをほとんど語らず、近所の女性を異様な近さで見つめます。人物像の厚みならモーム、語り手そのものの不穏さならこちら。












