あらすじ
表題作の「夜市」と「風の古道」の二編が入っています。「夜市」では、大学生のいずみが、高校時代の同級生・裕司に連れられて、夜にだけ開かれる不思議な市場を訪れます。そこは異界の商人たちが、なんでも売り買いする場所でした。裕司は子どものころ、迷い込んだこの市場で、ある取引をしていたのです。
読みどころ
ホラー小説大賞の受賞作とはいえ、心に残るのは怖さより異界の静けさと、取り返しのつかないものへの切なさのほう。短い話なのに、長い旅から帰ってきたような感覚が残ります。併録の「風の古道」も、日本のどこかにありそうな異界の道を描いた一編です。
こんな人に
おすすめしたいのは。怖すぎない、不思議な話が読みたい人。
二編とも短く、一晩で読み切れます。余韻は、そのあと何日も続きます。
向かないかもしれない人
ホラーの賞を受けた作品ですが、怖がらせる場面は多くありません。悲鳴が出るような恐怖を求める人や、異界の決まりの細かな説明を望む人には、ぼかされた輪郭が物足りなく映ります。
比べ読み
『かたみ歌』朱川湊人
どちらも怖さより切なさの残る不思議譚です。『かたみ歌』は昭和の下町の商店街を舞台に七つの話が一つの町でつながり、懐かしさが前に出ます。『夜市』は異界の市場と古道の二編で、取り返しのつかない取引の重さが芯。郷愁に浸りたい夜は朱川作品、異界の静けさを味わいたい夜は恒川作品を。
『ぼぎわんが、来る』澤村伊智
同じホラー小説大賞の受賞作でも、読み味は正反対です。『ぼぎわんが、来る』は名前を呼ぶ何者かが家に迫ってくる正面からの怖さ。『夜市』は異界の商人たちの市場を舞台に、怖さより静けさと切なさが残ります。しっかり怖がりたい日は澤村作品、眠る前に不思議な話を一つ読みたい日はこちら。














